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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)5902号 判決 1966年7月29日

原告 大塚気和

原告 株式会社久保田製菓つくしや

右代表者代表取締役 久保田勝次

右原告両名訴訟代理人、弁護士 中田真之助

高野敬一

被告 岸田芳明

右訴訟代理人弁護士 森川静雄

馬場敏郎

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

1  原告ら

被告は原告らに対し別紙物件目録(二)記載の物件を収去して右物件の敷地部分を明渡せ、被告は原告らが別紙物件目録(一)記載の土地(以下係争地という)を通路として使用することを妨害する一切の行為をしてはならない。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並に右明渡しの部分について仮執行の宣言を求めた。

2  被告

主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者の主張

1  原告ら(請求原因)

一、被告は別紙物件目録記載の土地を所有している。

二、原告大塚は右被告所有の土地のうち係争地に隣接する二三坪八合七勺(七八、九〇平方メートル)を昭和二四年一二月頃(この部分は被告の先代より賃借したがその先代は昭和三二年一二月死亡し被告が相続し賃貸人の地位を承継)、三五坪九合一勺(一一八、七一平方メートル)を昭和三三年四月頃それぞれ普通建物の所有の目的で賃借し、その地上に(イ)東京都世田谷区北沢二丁目九六二番地家屋番号五、五一三、木造瓦葺二階建居宅一棟一階一七坪五〇(五七、八五平方メートル)二階三坪七五(一二、三九平方メートル)(ロ)東京都世田谷区北沢二丁目九六二番地家屋番号三六番二木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺二階建店舗兼居宅一棟一階一八坪七五(六一、九八平方メートル)二階一九坪二五(六三、六三平方メートル)を所有し右(イ)を住居(ロ)を店舗として使用している。

三、原告株式会社久保田製菓つくしや(以下原告会社という)は前記被告所有土地のうち原告大塚の賃借土地より係争地をはさんで反対の側一四坪(四二、九七平方メートル)を昭和三三年五月頃更に一四坪(四六、二八平方メートル)を昭和三八年五月頃それぞれ賃借し、右地上に東京都世田谷区北沢三丁目九六一番地家屋番号三四番二木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅一棟(現況木造モルタル二階建店舗)建坪一四坪、二階一四坪(四六、二八平方メートル)を所有し現在右建物の裏側に倉庫を建築中である。

四、しかして本件係争地は昭和一〇年四月頃以前より被告の所有土地の賃借人である田中賢三郎、野口彦則、間辺久次郎らが一般通路として使用していたものであり、原告大塚は昭和二四年一二月頃被告先代から、原告会社は昭和三三年五月頃被告から前記賃借をするさい、原告らは被告及びその先代より原告らが共同して通路として使用することを目的とする使用貸借契約を結びじらい右目的に従い通路として使用し、かつ占有してきたものである。

五、しかるに被告は昭和三九年五月二八日突然本件係争地に別紙物件目録(二)の物件を建築し、原告らの通行を不可能にした。これがため、原告大塚は前記(イ)の建物より公道に出ることが不可能になり、又、原告会社は裏からの出入が不可能となり営業に支障を生じている。

六、よって原告らは係争地に対する使用貸借契約および占有権に基き前記(二)の物件を収去してその敷地部分を明渡すと共に係争地を原告らが通路として使用することの妨害を禁ずる旨の裁判を求める。

2  被告(請求原因に対する答弁)

第一、二、三項は認める。(但し原告大塚に最初賃貸した土地の地積は二三坪八合一勺(約九五、二三平方メートル)である。

第四項は否認する。

第五項のうち、被告が係争地に原告ら主張の日、その主張の工作物を建築し、原告らの通行ができなくなったことは認めるが、そのほかの事実は知らない。

第六項は争う。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、原告らが請求原因第一、二、三項において主張する事実は当事者間に争がない。(ただし、原告大塚の賃借した土地の地積に些少な相違があるが本件争点とは全く無関係であるからそれはそのままにしておく)

二、そこで先ず原告ら主張の係争土地の使用貸借契約の存否について判断する。

原告大塚気和尋問の結果によると昭和二四年に被告先代より土地を賃借するとき本件係争地を通路として使わして貰うと言うことで名義書換料として金一〇万円を被告先代に支払ったとの趣旨の供述があるが右供述は至極あいまいに受取られたし、それに被告本人尋問の結果と後記認定の事実に照し信用できなく、又証人久保田芳郎の証言中には、原告会社と被告との間に公正証書(甲第三号証)を作成するさい権利金四二五万円の支払につき地主である被告は本件係争地を道路として使ってもよいのだからこれを計算に入れると右権利金は相場より安いと言った旨の部分があるが同じ証人の証言中に原告会社の賃借した土地は栄通りの表通りに面した繁華街で権利金は坪四、五〇万円もしていた(昭和四〇年二月八日、証言当時)ことが認められ物価騰貴その他を考慮に入れてもなお原告会社が前記土地を賃借した当時本件係争地は数一〇〇万円の価値があることが窺われ、その価値のある土地を被告が対価もとらないで貸すようなことは異例なことであるし、それに≪証拠省略≫によれば、被告は係争地を何かに利用する考えもあり他に貸すことを留保していたことが認められるから右証人の右供述部分は信用できなく、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。そのうえ≪証拠省略≫によれば被告は終戦前より本件係争地の奥にあった被告先代所有の家屋に居住し、その家屋は裏口が本件係争地に接し、被告岸田はその裏口から本件係争地を栄通りに至る道路として利用し戦前この通路を利用していた者は野口彦則、間辺久次郎、榎本某であって被告及びその先代もそれを黙認していたこと、又戦後これらの人が他に移転して後は、本件通路を利用する者は被告、原告らであったが被告岸田は、自分が本件係争地を通路として利用していた関係もあり原告らが本件係争地を通路として利用することを戦前同様事実上黙認し、原告らも被告と本件係争地については別段何の取きめをするでもなくそのまま利用していたことが認められる。

したがって右被告の黙認をとらえて原告らと、被告との間に法的権利関係の生ずる使用貸借契約が成立したものとみるにわけいかず、原告らの右請求は理由がない。

三、つぎに原告らの占有権にもとづく請求について判断する。

原告らが前記土地賃借以来本件係争地を通路として利用していること、しかもその利用はいわば被告の利用に便乗した被告の黙認と言う事実関係でなされていることは前記認定のとおりである。

このように係争地を単に通路として利用していると言うだけでは(原告らは本件係争土地を占有していると言いその態様については単に通路として利用しているというだけでそのほか何らの主張をしない)その土地を所持、すなわち他人の力を排して支配していたということはできない(昭和三〇年一一月二五日東京高等裁判所民事七部言渡判決、東京高等裁判所判決時報第六巻一二号、二八二頁参照)し、それに証人大塚弘章の証言によれば被告が原告らの占有を侵したと主張する昭和三九年五月当時本件係争地を通路として利用していた者は原告らのほかにも稲葉一雄がおり、その他にも原告大塚の家屋の前にある寿司屋とか桶屋、八百屋が自由に自転車(一〇台位)オートバイ(四、五台位)をおいて利用していたことが認められるから、原告らが排他的にこの係争地を支配していたと見ることはできない。

したがって、原告らの占有権にもとずく請求も失当である。

四、よって、原告らの請求を棄却し、訴訟費用は敗訴の原告らに負担させ、主文のとおり判決する。

(裁判官 地京武人)

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